美容脱毛業界のトップランナーとして一時代を築いたミュゼプラチナム。しかし近年、給与未払いや全店舗一時休業といった衝撃的なニュースが相次ぎ、その経営状況は日本中の注目を集めました。
この未曾有の危機の中、MPH株式会社の代表取締役社長に就任したのが高橋英樹社長です。
今回は、ミュゼプラチナムが直面した激動の経営危機と、高橋社長がその中でいかに再建の指揮を執り、どのような未来を描いているのか、その舞台裏を深掘りします。
かつての脱毛業界盟主、なぜ激動の渦中へ?

かつてミュゼプラチナムは、全国に169店舗を展開し、売上・店舗数・顧客満足度でNo.1を獲得(2021年時点)。430万人を超える女性に選ばれてきた美容脱毛サロンの代名詞でした。
その輝かしい実績とは裏腹に、近年は給与未払いや全店舗一時休業といった報道が相次ぎ、多くの顧客や従業員に不安が広がりました。
この混乱の背景には、過去のビジネスモデルに潜む構造的な問題がありました。
特に2009年頃から導入された「永久保証・通い放題」契約は、顧客から前払い金を受け取るものの、その後のサービス提供には継続的な人件費や店舗運営費が発生し、新たな収益を生み出さない構造でした。
これが巨額の負債として積み重なり、経営を圧迫していったのです。
さらに、2025年2月に発生した「重大な乗っ取り事案」や経営内部の対立が資金繰りの悪化を加速させ、最終的にMPH株式会社は2025年8月18日、東京地方裁判所から破産開始決定を受けるに至りました。
負債総額は約260億円、サービス未提供の顧客を含む約20万人の債権者が存在する、脱毛サロン業界で過去最大の倒産規模となりました。
高橋社長が挑む、信頼回復への多角的な挑戦
このような厳しい状況の中、2025年3月31日付けでMPH株式会社の代表取締役社長に就任したのが高橋英樹社長です。
彼は、給与遅配や情報発信の不十分さについて深く謝罪し、「決して逃げずに、具体的な行動と結果で信頼を取り戻す」と表明しました。
高橋社長は、ミュゼプラチナムの再建に向けて、多角的な戦略を打ち出しています。
1. 新事業モデル「どこでもMUSEE」の始動:都度払い制とフランチャイズ化
2025年4月18日、MPH株式会社はフランチャイズ形式の新サービス「どこでもMUSEE」の始動を発表しました。
この新モデルでは、従来の「前払い方式」から「お手入れごとの都度払い制」へと料金体系を刷新。これにより、顧客は安心してサービスを利用できるよう透明性を高める狙いがあります。
現在、約350店舗から加盟申請があるなど、順次拡大を進めています。
このビジネスモデルの転換は、過去の「高額前払い」「通い放題」モデルが引き起こした財務リスクと顧客不信への直接的な対応です。
都度払いは顧客の金銭的リスクを軽減し、フランチャイズ化は本部の直接的な運営コストと倒産リスクを低減しつつ、ブランドの迅速な再展開を可能にしています。
2. 新生ミュゼプラチナム株式会社による事業継承と多角化

2025年3月10日、グローバルブリッジファンド合同会社(GBF)が経営権を取得し、商号を「新生ミュゼプラチナム株式会社」に変更しました。
同社は2025年6月1日より、ミュゼプラチナムの一部店舗の運営を継承し、営業を再開しています。
新生ミュゼプラチナムは、女性専門の「ミュゼプラチナム」と男性専門の「メンズミュゼプラチナム」の運営に加え、化粧品開発、Eコマース、メディア、メディカルサービスなど多角的な事業を展開。
新たな脱毛方式として「S.S.C. iPS care 方式」を導入し、iPS細胞培養上清液を配合した美容液を使用することで、脱毛パワーを30%UPするなど、技術面での差別化も図っています。
3. ミュゼコスメの店頭販売再開とECサイトリニューアル
2025年5月28日より、スキンケアブランド「ミュゼコスメ」の店頭販売が「どこでもミュゼ」の18店舗で再開されました。
ECサイトもリニューアル準備中で、今後は会員以外の一般顧客も購入可能になる予定です。これは、サロンサービスに依存しない収益源の確立と、ブランド価値の多角的な活用を目指す動きです。
4. 男性向け市場への展開:メンズミュゼプラチナムの成長戦略

男性専用美容脱毛サロン「メンズミュゼプラチナム」は、2024年8月8日に名古屋栄店をオープンするなど、積極的に新店舗を展開しています。
ミュゼプラチナムが培った接客ノウハウを活かし、男性市場でのシェア拡大を図ることで、新たな成長ドライバーとして期待されています。
残された課題と未来への視点
再建への道はまだ険しいものがあります。
未払い賃金問題と顧客への対応
MPH株式会社の破産開始決定により、元従業員の未払い賃金問題は「未払賃金立替払制度」の適用対象となります。
この制度により、未払い賃金の一部(上限ありで8割)が立替払いされますが、残りの2割や上限を超える分については、破産管財人による資産調査と分配を待つ必要があります。
高橋社長はMPHには「資産はありません」と述べており、元従業員からは「(給与を)踏み倒している感じが本当に許せない」という切実な声も上がっています。
顧客へのサービス継続については、新生ミュゼプラチナム株式会社が「置き換えコース」を提供し、有償の未消化回数が残っている顧客のサービス継続を可能にしています。
しかし、これはあくまで「サービス継続」であり、現金での「返金」については現時点での発表はありません。
クレジットカードで支払い済みの顧客は、「支払停止の抗弁権」を主張することで、未消化役務に対する支払いを停止できる可能性があります。
業界全体の信頼回復と長期的な課題
帝国データバンクは、ミュゼプラチナムの問題を「広告宣伝と高額コース依存のビジネスモデルが限界に達した」と指摘し、業界全体の信頼回復を急ぐべきだと提言しています。
脱毛サロン業界は価格競争が激しく、2025年7月までに12件が倒産するなど、厳しい状況にあります。
SNS上では「かつては予約が取れないほど人気だったが、今は家庭用脱毛器の方がコスパが良い」といった意見も散見され、競合環境も厳しさを増しています。
特にシニア層など、安心と信頼を重視する顧客層に対しては、契約内容の透明性、迅速なトラブル対応、そして継続的なサポート体制の充実が、今後のブランド価値を左右する鍵となるでしょう。
まとめ:再生への道のりと私たちの考察
ミュゼプラチナムは、過去のビジネスモデルの構造的欠陥、複雑な経営権の移転、そして内部対立が複合的に絡み合い、未曾有の危機に直面しました。
高橋英樹社長は、この混乱の最中に経営の舵を取り、新会社「新生ミュゼプラチナム」やフランチャイズモデル「どこでもMUSEE」の導入、ミュゼコスメ事業の再開、男性向け事業の拡大など、多角的な再生戦略を打ち出しています。
これらの戦略は、過去の反省を踏まえ、顧客の金銭的リスク軽減と経営のリスク分散を図るものです。
高橋社長のリーダーシップは、厳しい批判に晒されながらも、ブランドの存続と再建に向けた具体的な行動を起こしています。
MPHの破産という「過去」と決別し、新たな体制で「未来」を築けるかどうかが、今後の焦点となるでしょう。
特に、未払い賃金や未消化役務に対する誠実かつ透明な対応は、失われた顧客と従業員の信頼を取り戻す上で不可欠です。
ミュゼプラチナムの事例は、美容業界におけるビジネスモデルの持続可能性、顧客信頼の重要性、そして危機管理と企業再生の難しさを示す教訓となります。
その再生への道のりは、まだ始まったばかりであり、その動向は美容業界全体の未来を占う上で、引き続き注目に値します。